ハンドルネーム ya
某公立学校通級指導教室担当教員
言語聴覚士
特別支援教育士(S.E.N.S)
性別 男
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6月16日は、上川管内の富良野地区の研修会にお呼ばれしました。テーマは「構音」。
午前中は講演、午後は事例検討3ケースでした。
今回講演では、ある事例をもとに、アセスメントの取り方から、指導仮説、実際の指導方法と、「OJT」を意識した内容にしてみました。
ただ基礎知識を並べるだけでは、実際の指導に結びつかないと考えたからです。
ねらいは的中しました。
感想文を見ると、「いろいろな断片的な知識が、この研修で一本につながりました」との書き込みがありました。
いいですね。
道言協の言難ABCも同じネタでいこうかな。
午後の事例では、
構音検査は、主訴の音だけでなく、全体を見ること。
器質的な問題と、実際の構音との関係が本当にあるのか、自分の発音での舌の動きを鏡で映して確かめること。
などを説明させていただきました。
構音障害について正しいのはどれか。
a 何度教えても、「リンゴ」を「ゴンリ」と言うものも含む。
b 「ぼ、ぼ、ぼくは」など、はじめの音を繰り返すものは含まれない。
c 自然に改善するタイプと、自然には改善しにくいタイプとがある。
d 年齢が上がれば自然に改善する。
e 住んでいる地域の方言も含む。
① a,b
② b,c
③ c,d
④ d,e
⑤ すべて
***
正答例 2
a
「り」「ん」「ご」のそれぞれの音は発音できており、音順を間違えているだけです。構音操作の問題というよりは、聴覚的把持力、音韻意識(語音を認識する力)の問題である可能性が高いです。
b
吃音の可能性が高いです。吃音と構音障害とを混同しやすいですが、両者は全く異なるものです。
c、d
個人差もありますが、たとえば「サ行」の「シャ行」への置換よりも、「キギケゲ」の歪みなど側音化構音などの方が、一般に自然改善は難しくなります。
e 住んでいる地域の人との間で違和感なく過ごせているのであれば、構音障害とは言いにくいです。
構音障害には様々な定義があるようです。ただ、音そのものの誤りというだけでなく、そのことにより日常生活に支障が生じているかどうかも、重要な視点です。
正しいのはどれか。
1.「お口の体操」は、構音障害のある子には必ず行った方が良い。
2.無意味音節では正音でも、単語レベルで誤音の場合は、語内位置弁別(単語の中のどの位置にその音があるかを判断すること)がどうかを確かめる。
3.どの音でも、正しい音を繰り返し聞かせて練習すれば、発音は改善する。
4. 「イ」の歪み音の改善のために、歯磨きさせながら言わせると良い。
5. 「カクケコ」→「タツテト」の置き換えの場合、前歯のかみ合わせが重要。
***
1 お口の体操が必ずしも必要でないケースなのに、そればかり行って一年たってしまったという事例が見られます。お口の体操が必要か否かの判断は、新しい先生には難しいかもしれません。
めやすは、「構音類似運動」です。
たとえば、カ行がタ行に置き換わるのは、奥舌が挙上して、軟口蓋に接して破裂させることができないからです。奥舌を挙上させ、軟口蓋に接し、その際、舌先は下げたままで、「んーー」と言えるかどうかが判断材料の一つになります。
また、「全体的不明瞭」な場合、発語器官の筋力が弱い場合や、舌などの微細運動が苦手なことが要因である場合があり、その際は、お口の体操もよいかもしれません。
ただ、そもそも、自分が発した言葉をリアルタイムで自分で聞き取ったり、相手に伝わったかどうかを確かめながら話すことの苦手さが要因である場合には、お口の体操は時間の無駄と言えます。
3 正しい音を聴かせれば、正音が発音できるというのを「聴覚刺激法」と言います。
前回記事で触れたように、聴覚刺激法は、被刺激性(正音を聞かせると、正音が出せる)がある時には有効ですが、被刺激性がないのに、この練習を繰り返すのは無意味です。
4 側音化構音の場合、舌の脱力が重要です。歯磨きをさせてイ段の音を出すというやり方は、両口唇を引くことで「イ段」を導こうとしたのかもしれません。
しかしそれでは、舌の状況が観察できませんし、発語器官の余計な動き、緊張を誘発する危険性が高いため、歪み音の指導としては、きわめて不適切です。
この手法は、某文献で、知的障害のある子への指導例として載っていました。
そしてその手法は、「指導の体系化冊子」という、寄せ集めの「テキスト」で引用されたわけです。しかしこの冊子の執筆者は、経験年数の短い先生方が多く、文献の引用や学術的根拠などについて、誤った内容、偏った内容が多々見られます。数年前、全道大会で発表されたものですが、持っている方は、すぐ破棄することをお勧めします。
5 カ行は、構音の位置が奥舌と軟口蓋ですから、前歯のかみ合わせは関係ありません。
一音、一音について、口の中のどの位置で音を産生しているのか、仕組みを十分理解してから、指導を進めることが大切です。
6歳児。「シ」が単音節レベルの側音化構音への初期の指導で、最も適切なのはどれか。
1. ろうそくの火を吹き消したり、風車を吹いて回す。
2. 顎が左に偏位するので、右に戻す練習
3. 何度も「シ」の正音を聞かせて、繰り返し発音させる
4. 舌の脱力を練習する
5. 正音と歪み音との弁別(聞き分け練習)を行う。
***
側音化構音の評価のポイントは、舌先が左右どちらかに向いているかとか、顎が左右に偏位しているか、とかではありません。
舌背が挙上して、呼気が正中から出るのをブロックしていること自体が問題なのです。
したがって、ろうそくの火を吹き消したり、風車を回すなどの練習は、舌背が挙上して、呼気が舌縁から漏出しているならば、意味のない指導です。
口唇で呼気がまっすぐになっても、口の中では呼気が横から漏出しているならば、かえって側音化を強化するだけです。何年通っても改善しません。
また、側音化構音は、指導者の耳が慣れて、「少しよくなった」と感じることがあります。
しかし、側音化構音の場合は、「少しよくなった」はありえません。
正音が出せるようになると、「全く違う音が作られた」と感じられるはずなのです。
ほとんどの場合、指導者の錯覚です。
音の渡りの関係で、歪みは顕在化するでしょう。
一般家庭ではできない指導です。
正しい音を聞かせて、まねして言わせる指導を「聴覚刺激法」と言います。
側音化構音の場合、被刺激性(正音を聞かせると音が改善する)がない場合がほとんどですから、無効です。
聴覚刺激法で改善するぐらいなら、ことばの教室の先生は不要です。
特に低学年の場合、正音と歪み音との聞き分けは難しいです。
何年もかけて子どもが大きくなってしまって、卒業、という事例がありました。
時間の無駄です。
その時間を使って、構音練習をした方がはるかに効率的です。
正音が出るようになってから、正誤弁別を行えばよいのです。