この記事については、以下の点で留意が必要です。
1 この記事は、文字の読み書きの背景にある能力について深く検証し、指導の手だてをスモールステップ、及び多視点で組み立てるのが目的であり、できないことを列挙して否定的な評価を子どもに与えることが目的ではないこと。
2 文字の読み書き指導は訓練的にならないようにし、子どもの興味関心に合わせるなど、学習を楽しめるように配慮すること。
3 週数回の限られた指導時間の中で、文字の読み書きを指導内容に含めるかどうかは、一定の時期ごとに慎重に検討すること。その際、通級は、在籍学級や家庭等での支援など全体の中の一部であることに十分留意すること。
知的能力には遅れがないが、文字の読み書きに困難さのあるお子さんがいます。
視力に問題はないが、形を見分けたり、交わった線や斜めの線を認識したり、ある図形をみてその形の通りに空間関係を把握しながら別の場所に書き写す等が苦手な場合があります。
あるいは、行をとばさないで読だり、左右上下に眼球をスムーズに動かすことが苦手な場合があります。(視機能、視知覚)
聴力には問題がないが、ことばを聞き分けたり、今言われたことばを短い時間記憶しておいたり、あることばを聞いて、たとえば「頭につくことば」(語頭音)が何かを抽出したりすることが苦手な場合があります。(音韻意識、音韻分析能力、聴覚的短期記憶など)
自分の思い通りに鉛筆を握ることが苦手だったり(母指対立等)、今鉛筆がどの位置にどの方向に動いているかを目や手の感覚でフィードバックして瞬時に把握することが苦手な場合(目と手の協調運動等)があります。
つまり、文字の読み書きの困難さの背景には様々あり、子どもによって違います。
また、それらの発達上の困難さは、単に育て方が悪かったとか、本人の努力が悪かった、と単純に片づけられるものではありません。
子どもの力についての客観的なアセスメントを通して、その子の持っている優れた力、苦手なことをよく理解し、その子に合った指導の手だてを考えることが重要です。
○アセスメントの例
・WISC-3知能検査
・K-ABC
・森田式読み書き検査
・森田-愛媛式読み書き検査
・『小学生の読み書きスクリーニング検査 発達性読み書き障害(発達性dyslexia)検出のために』 宇野彰他著
・フロスティッグ視知覚発達検査
・教科書の音読
・行動観察
・保護者や学級担任等からの情報収集
○字が読めない場合に考えられること
1 音韻分析が苦手(ただし、以下の課題ができなくても、文字の読みに困難がないケースもある)
(1)聴覚的短期記憶はどうか?
4 2 8 1
などの1秒間隔のランダムな数字の羅列を何桁復唱できるか?
(2)耳で聞いた語音の比較、抽出、分解など
・語音の羅列の中で、特定の音の有無
・2つの単音が同じかどうかの異同弁別
・語内位置弁別(「たまご」の「た」は、どこにある?)
・音を並べ替える(「こた」→「たこ」)
・音韻意識(「たまご」はいくつの音?→「3つ」)
・2つの語の音節数の比較をする
・音を付加する。
(「たま」に「ご」をつけると何?」)
・音を削除する。
(「たまねご」から「ね」をとったら何?」) など
2 文字の形の把握が苦手
(1)似たような文字が見分ける?
教材の最適化!
(2)複雑な幾何学図形を見分ける?
「同じなのは、どっち?」
教材の最適化!
(3) 斜めの線、交わった線がわかる
図形の重なりがわかる
「鉛筆で形をなぞろう」
教材の最適化!
(4)簡単な図形の違いを見分ける
(「左と同じ形は、次の3つのうちどれ?」)
3 1と2はクリアしているが、語音と文字の形とのマッチングが苦手
※ 絵と文字とを重ね合わせて提示し、「絵」→「語想起」→「語頭音抽出」→「読み」という別の回路を使ってつなげる。
→ その際、視覚的な細部に注目させると、成績が向上する可能性あり。
「いす」の「い」だね。
ちょうど椅子の脚の部分だね。
「へび」の「へ」。
「しっぽの部分が長いね」
「こま」の「こ」。
ちょうど回る部分だね。
「もも」の「も」。
くるんと丸いところが重なっているね。
「ひこうき」の「ひ」。
「翼の部分がちょんと重なっているね。」
「つくえ」の「つ」。
ここが物を載せる部分だね。
※(画像はジャストシステム「一太郎スマイル」の素材や、「障害児教育支援機器情報」から引用し、私がひらがなを重ね合わせて画像化しました)
4 そのほか
視線移動の問題、処理速度の問題など。
教材の最適化!
ひらがなの読みの前に、漢字の読みから入ると良い場合がある。
文字と図形との関係の必然性を持つ教材は、たとえば以下のページにある。
→
青葉出版「漢字のなりたち」
5 「あ段」と「あ行」だけ読める子には、ひらがな50音表を使って読む方法もある。
前提条件として
(1)「か」が読めて、「か」を提示するだけで「かきくけこ」と聴覚的に記憶、表出できていること。
(2)「あ段」のひらがなが全部読める状態か、「あかさたなはまやらわ」と聴覚的に記憶、表出できる状態になっていること。
(3)「あ行」のひらがなが全部読める状態か、「あいうえお」を聴覚的に記憶、表出できる状態になっていること。
※「く」の読み
1 「く」の文字カードを提示し、50音表の中から同じひらがなを見つけさせる。
2 「か行」にあるので、「かきくけこ」のどれかであることを知る。
3 「う段」なので、「かきく・・・」と頭の中でたどり、「く」が表出できる。
(「く」を伸ばして言うと、「う」になることがわかる)
教材の最適化!
※「く」を伸ばして言うと、「う」になることがわからない場合。
→T「かきくけこ」をそれぞれ伸ばして言ってごらん。
C「かーーーーーー」
T「かーーー」と言って、ちょっと息を止めて、また続けてごらん。
口の形は変えないでね。
C「かーーーー、あああ」
T「あああ」を短くしてもう一度。
C「かーーー、あ」→「あ」だ。
T「伸ばすと『あ』になるのは、「あの段」だったね。
では、「かきくけこ」の「き」でやってみるか。
・・・・・
C「くーーー、う」、「う」だ。「う段」だから、これは「く」だ。
4 この作業を繰り返すことで、50音が徐々に読めるようになる可能性がある。
※ 文字の読みの指導の際、「単音ではなく、単語の読みから教えた方が覚えやすい」という主張を目にすることがあります。確かに多くの子にとっては、既知の単語を用いて読みを指導することで覚えやすいかもしれませんが、私の経験上、そうではない子がいることも確かです。
たとえば音韻分析がうまくいかない子に対して、いきなり単語での指導というのは、ステップが荒すぎるようです。
文字の読みには、単語をぱっと見て読めるということも大切ですが、それだけではいわゆる「勝手読み」を克服できない場合もあります。単音から入った方が良い場合もあります。子どもによって違うということです。
5 手先の不器用さ等により、文字の書きが苦手な場合
(1)母指対立(たとえば親指と人差し指の先でつまむ等)が難しいため、鉛筆を握ることにも困難さがある場合、書くことが苦痛になります。
→
トンボ鉛筆「もちかたくん」
→
くもん出版「こどもえんぴつ」
(2)肩、腕、手首、指先等の協調運動、または分離した運動が苦手な場合
(3)目と手の協調運動が苦手な場合等
→感覚統合についての研修が必要
※ 何を隠そう、私も学童期は文字の読みが苦手でした。読んでも意味が頭に入らないのです。今考えるとそれは、注意の配分が苦手なこと(現在進行形)と、語彙の不足、視機能の困難さ(明るさの調整が現在でも苦手)が背景にあります。
ついでに書きますと、人のことばを聞くとき、少しでも雑音が聞こえると聞き分けが困難になります。誰でもそうですが、私の場合、明らかに他の方「よりも」困難さが重いです。実はこのことは、この歳になって最近やっと気づきました。人より聞き取りにくいのはわかっていましたが、どんな条件で聞き取りにくいかは最近判明しました。飲み会が苦手なことの理由の一つがはっきりしました。
視覚も聴覚も、妨害刺激が入ると全くだめです。
自分のことは本当にわからないものです。
参考文献
○『長所活用型指導で子どもが変わる特殊学級・養護学校用
-認知処理様式を生かす国語・算数・作業学習の指導方略−』
藤田和弘/他編著 図書文化社 2,500円 1998年
○『言語聴覚士のための失語症訓練教材集』 立石雅子編集
医学書院 2001年
○『日本LD学会大会発表論文集』 日本LD学会 各回
○フロスティッグ視知覚発達検査 日本文化科学社
○『 「見る」ことは「理解する」こと 子どもの視覚機能の発達とトレーニング 』本多和子/著 北出勝也/著 、山洋社
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