ハンドルネーム ya
某公立学校通級指導教室担当教員
言語聴覚士
特別支援教育士(S.E.N.S)
性別 男
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失語症の病状と学習障害・発達性の言語障害とは同一視できません。
失語症は、既に獲得した言語能力が、脳損傷により失われるために発症するものであり、これから育っていく子どもの臨床と同一視はできません。
しかし、失語症の知識を持つことで、子どもの発達障害の見立て、鑑別に役立つことがあります。
以下、失語症の基本的な用語を紹介してみます。
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・ 理解障害→語音認知の障害(聴力正常でも、音声のことばを聞きわけられない)、語義理解の障害(音声言語として聞き取れても、その意味が理解できない)、聴覚的短期記憶の障害(一度に覚えられるものが少ない)。
・ 喚語困難(語想起障害)→言葉が思い出せない状態をいうが、語頭音のヒントがあると出てくることもある。
・ プロソディー→韻律。リズム、抑揚、音色のこと。自閉症スペクトラム障害のお子さんの中には、不自然にキーの高い声だったり、抑揚が平板な場合がありますね。全ての子がそうではありませんが、プロソディーが不自然な場合は、さらにその子について深い理解を必要とするというサインではあるでしょう。
・ 錯語→「音韻性錯語」(「字性錯語」とも言う。「りんご→ごりん」など。構音障害と鑑別を誤らないように)。「語性錯語」(「りんご→みかん」と誤るなど、同じカテゴリー内の語に誤る。まったく無関連の語に誤るものもある)。「錯書」は、書くときに誤るもの.
・ 新造語→「きもわく」など、もとの言葉がわからないほど音が異なったもの。音自体は日本語の音で、歪みなどはみられない。
・ ジャルゴン:意味をなさない文レベルの発話。発話が音韻性中心のものは音韻性ジャルゴン、新造語が多くて意味がわかりにくいのは意味性ジャルゴン(例 「これ、きもわくが たいへん」)、同じ音や語の繰り返し(ex. ととと)は再帰性発話・残語とされる。(吃音とまちがえないように)
・ 迂回表現→その単語が言えず、それを説明するように話すもの。(例:「りんご」という名前が言えないが、「赤くてね、食べ物でね」と、属性などを説明すること)
・ 失文法→電文体発話(助詞が抜けるもの)や活用語の産出が困難。「弟 私 言った」
・ 錯文法→助詞の使用や活用、文の構造が不適切。
・ 保続→一度言ったことばが何度も繰り返しでてくること.たとえば、ある問題の回答を言った後に、次の問題でも前の回答を言ってしまうなど。
このほか、復唱、自発話、呼称、読解、音読、流ちょう性、エコラリアなど、様々な観点から評価していきます。
(ちなみに、エコラリアと復唱、模倣とは、似て非なるものです。)
これらから、失語症の場合
「ブローカ失語」、「ウェルニッケ失語」、「伝導失語」、「健忘失語(失名詞失語)」、「全失語」、「超皮質性運動失語」、「超皮質性感覚失語」、「混合型超皮質性失語(言語野孤立症候群)」、「皮質下性失語」、「純粋型障害」(純粋語亜、純粋語聾、純粋失読、純粋失書、純粋失読)
などにタイプ分類します。(詳細は、機会があれば書きます。検索したら色々出てくると思いますが)
それぞれの失語には、脳のある部分の疾患と対応関係にある、というのが古典的なとらえ方ですが、実際にはそうでもなかったり、複雑に絡み合っているので、いちがいに、この失語はこの脳部位とは言えないのです。
学習障害では、脳の左角回とか、補足運動野とか言われていますが、「ある部分」に限局してとらえても、本当にそうかどうかは必ずしも言えない例もあるわけで、むしろ、脳は全体的にネットワークで動いているのだというダイナミズム的な理解が必要でしょう。
吃音の一部に大脳基底核の関与が示唆されていますが、それも吃音の一部に過ぎない上に、まだ研究途上であるという条件を受け止める必要があるでしょう。
今、脳科学と教育とを結びつける研究が盛んですが、臨床家としては、脳の部位がどこであろうと、目の前の子どもにとってどんな指導が有益かについて、それまでの生育歴や、現在の状態を正確に評価した上での対応が大事だと思うのです。
「中脳は構音を司るから、構音障害のある子には中脳への対応を」
と言っても、臨床家としては何もできませんね。
それ以前に、通級対象の構音障害のお子さんの大部分は「機能性構音障害」であり、中脳などという低い位置の疾患のお子さんは居ません。