今日届いた中川信子先生の新書です。
http://skygarden.shogakukano.jp/skygarden/owa/sol_detail?isbn=9784098250479
読後感を一言で言うと、「感動した」です。
1
教え込むのではなく、引き出す。
「エンパワメント」
「尊厳」
という哲学が、本全体から感じられます。
そして著者の人生、生涯との関連を語る
「おわりに」の章では、
STとしての、というより一人の人間としての、
切なる想いが強く胸に迫ってきました。
2
ご家族4組の経験談は、子どもの育ちを
「長い目で」見ることができることを
当事者の視点で伝えてくれます。
「涙味のアイス」は、もらい泣きしそうになりました。
専門家が語るよりも、先輩の当事者に語って頂いた方が
はるかに親御さんの心に届く、ということを
親の会の活動の中で感じることが多いですが、
そうした働きをまさにこの本がしてくれるようです。
そうした意味で、親御さんにもお薦めです。
とてもわかりやすい、読みやすいという点でも。
3
さて、この本には、ABAやTEACCH、絵カードがほとんど、
あるいは全く登場しないという意見が出ているようですが。
「スモールステップに分けた」、「ほめる」、「ていねいな配慮」
「視覚的手がかり」、「目で見える工夫」などという語句も含め、
あちこちに表現されている、と私は読みました。
「あちこちに」という表現は正確ではないですね。
「必要な子に必要な支援を」と書かれているし、
その理念が本全体に貫かれています。
「○○法」などの専門用語が人に伝わるときに、
表面的にだけ理解し、あるいは自分のステータスのために、
形だけまねするという風潮を私の日常の中で見かけることがあります。
その結果、子どもや関係者に無理がかかったり、
「その子」にマッチしない、「その子」を見ていない、と感じることがあります。
著者はまさにそのことを指摘、示唆しているように思います。
そして、専門機関では専門的な実践をある程度できるとしても、
家庭でいつも理屈通りにやることは、なかなか難しい。
むしろうまくできないことの方が多いのでは。
トラブルや、逆に子どもの発達を感じる時は、
いつどこで突然現れるかわからない。
全部カバーしたつもりでも、あちこちで抜け落ち、
考えもしなかったことが起こるものです。
そして理屈通りにできなかった自分を責めたり、
疲れ、落ち込んだりしてしまうのが家族というもの。
構えすぎずに、日常の中での関わり楽しむことを第一に、
と考えて楽にいきましょう、ということなのでは。
それは「長い目で」という視点ともつながります。
そしてそれは専門的なアプローチを否定しているのではなく、
むしろそれらを生活文脈全体の中で、
本質を見失わずに活かそう、という主旨なのでは。
4
自閉症療育について、「音声言語でのことばかけ」を
かなり重視していて、時代遅れだという意見もあるようですが。
この本の「言葉かけ」の主旨は、かつての
「言葉のシャワーを浴びせてください」
とか、
子どもが見ていないのに、「これはお盆だよ、お盆だよ」
と聴かせるというのとは全く異質です。
子どもが何を表現しようとしているのかを常に感じ取ろうとし、
それに合わせた関わりを、というのが主旨と読みました。
それはインリアルの視点でもありますね。
否「インリアル」ということばを使った時点で、
何か急に色あせる、その哲学や理念が抜け落ちて伝わる感じが
私はするのです。
子どもが何を表現しようとしているのかを感じ取ろうとする、というのは
「人間の尊厳」が基底になければならないのでは。
それは教育だけでなく。
著者がそうした専門用語をあまり用いないのは、
わかりやすい文章ということもあるでしょうが、
既に持っている知識をいったん脇に置いて、
もう一度その専門用語の本質を考え直してみませんか、
と訴えるためではないかと思うのです。
それは自閉症を心因論に引き戻す意図とは、
全くことなる次元だと感じます。
つまり、時代遅れどころか、時代の最先端を行くのが
この著書です。
この本は専門書ではなく、まさに一般の方向けです。
そして実は、既有知識でいっぱいだけど
その理解は表面的にとどまっている「専門家」に
向けられているメッセージなのでは。
その意味では専門職の方にも強くお薦めです。
以上は、私の感想というフィルターを通していますので、
関心のある方はぜひ直接読んでみてください。
私は知人の多くにもお薦めすることを決めました。
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