ハンドルネーム ya
某公立学校通級指導教室担当教員
言語聴覚士
特別支援教育士(S.E.N.S)
性別 男
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1
「言語理解100、知覚推理100、ワーキングメモリ100,処理速度100、FSIQ100
以上の通り報告します」
→この報告書では、何がなんだかさっぱりわかりません。
下位検査はどうだったのか? 検査時の子どもの様子は?
検査者の立場での解釈は?
数値は大事ですが、その数値の意味するところが、この報告書では見えてこないのです。
「信頼区間」の記載がないこともルール違反です。数値は幅をもってとらえられなければならないという反省に基づいて、今のルールになっているはずです。
実際には、行動観察から生育歴情報なども総合して解釈しておられることも少なくありません。
外部の関係者が、保護者同意のもと、詳しい状況をお尋ねし、総合的解釈まで行けるような手だてが、別途必要なのでは。
2
「抽象的な思考に苦手さがあるようです。具体的にイメージできる説明の仕方を工夫します」
→主旨はわかりますが、どのような検査結果から、このような手だてが導かれたのでしょうか。
抽象的思考といっても、様々あるはずです。
手だてだけで、検査結果の記載が全くないのも、受け取る側はとまどってしまいます。
3
折れ線グラフの表をポンと渡して終わり。
→これは一番やってはいけないことのはずです。
受け取る側に数値の意味を解釈できる力量があるのか。
なぜその数値になったのかという背景情報や、指導の手だても何もない。
4
「○○の問題もできなかったんですよ」
→その問題は、能力の一部を代表しているにすぎません。
たまたま、その問題ができなかっただけかもしれません。
また、どのようにできなかったのか、検査時の子どもの反応はどうだったのかの情報も必要です。
関係機関の様々な制約があるなか、文書を受け取る側が、より総合的な解釈に近づけるために工夫することは、子ども理解のための正当な行為ではないでしょうか。
また、同じ検査結果でも、解釈には様々あるでしょう。
関係者同士が情報交流し、ディスカッションして視点を補い合う中で、より解釈を正確に、意味あるものにしていくことが大切なのだと思います。
8月中旬の研修会では、このことも話してみようと思います。
検査法の組み合わせで、正しいのはどれか。
1. 田中ビネー知能検査V ―――― 個人内差の把握
2. WISC-Ⅳ ―――――――――― 言語性IQと動作性IQ
3. ことばのテスト絵本 ――――― 選別検査
4. PVT-R(絵画語い発達検査)――― 全般的な言語能力
5. 就学時健診の一斉知能検査――― 知的障害の有無の最終判断
***
個人間差・・・他の子と比較してどのくらいの位置にあるか。
個人内差・・・その子の中で、強い力、弱い力の差
WISCー4では、「言語性IQ」「動作性IQ」は廃止されました。
WISC-3には存在していますが、検査自体が古くなりました。万が一使用する場合でも、言語性IQ、動作性IQよりも、4つの群指数(言語理解、知覚統合、注意記憶、処理速度)の方が有用です。
ただし、「注意記憶」の下位検査に「算数」が含まれてよいのか、そもそも「注意記憶」という概念自体どうなのかなど、様々な問題点が指摘されているため、古い検査の弱点はしっかりおさえる必要があります。原則として最新版を使うことが必要です。
選別検査は、障害の疑いがあるかどうかを「ふるいわけ」する検査であり、それだけをもって、知的障害などの判断の根拠にはなりにくいものです。
PVT-Rは全般的な言語能力ではなく、語いを見るテストです。
検査のやり方の研修も大事ですが、その前に、まずそれぞれの検査法の位置づけ、理論をしっかり学習した方がよいでしょう。
心理統計法は難しいですが、これを理解しないと、WISCなどの心理検査の意味も本当に理解したことにはならないのでしょう。
「まずは触ってみよう」
とか
「どうやって解釈したらいいのですか」
という話が、WISCの研修では必ず出てきます。
それはそれで大事なことではあるのですが、そのバックボーンである心理統計法の知識がなければならない、そんなに簡単に解釈していいものではない、と思えてきました。
WISCの解釈本に出てくる統計的処理は、WISCのために初めて開発されたわけではなく、昔からあるものをWISCに適用したということ。
因子分析→潜在変数の発見
クラスター分析→分類
「t検定」と、「帰無仮説」
これだけでも、かなり歯ごたえがあります。
***
一つだけ確認しておきたいこと。
WISCの4つの指標得点を
言語理解 80
知覚推理 90
ワーキングメモリ 80
処理速度 90
などと表記している時点で、統計学を無視していると言うこと。
そして、WISCを活用する上でのルール違反であり、語る資格もない、ということ。
それはなぜでしょう?
田中ビネー知能検査Ⅴ
→全般的な知能水準を測ります。その子の知的能力が、同年齢の他児と比べてどのくらいの差があるか「個人間差」を測ります。
産出されるIQは、13歳までは正規分布ではないため、WISC等のIQと比較するのは無意味です。
IQよりも、精神年齢、基底年齢が重要です。
WISCなどウェクスラー型知能検査でも全般的な知能は出せますが、指標得点間、下位検査間にばらつきがあれば、その値は慎重な解釈が必要です。
よって、指標得点間に有意差があるのに、FSIQが低いことを理由に、「知的障害」と教育的判断をするのは、根拠に乏しいです。
WISC-Ⅳ
→その子の中で、得意な分野、苦手な分野のバランス(個人内差)を見るには第一選択になります。
「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリ」「処理速度」の4つの指標得点の差異が重要です。
最近は、GAI(一般能力指標)(言語理解、知覚推理)、とCPI(認知熟達度)(ワーキングメモリ、処理速度)との比較についての報告が出てきています。
また「臨床クラスター」(下位検査間に共通する能力)の研究も進んでいるようです。
これらについては、既に感じていたところを科学的に根拠づけられた、という印象が強いようには思いますが。
*子どもの実態や、検査の目的によって使い分けることが重要です。
*検査は、数値だけでなく、検査時の行動観察、日常の情報、生育歴情報と付け合わせて解釈されなければなりません。
『エッセンシャルズ WISC-Ⅳによる心理アセスメント』カウフマン他、日本文化科学社
では、行動観察の重要性が、これでもかというぐらいに強調されています。