ハンドルネーム ya
某公立学校通級指導教室担当教員
言語聴覚士
特別支援教育士(S.E.N.S)
性別 男
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先日はことばの教室の先生方の役員会で、構音指導の基礎講座をお願いされました。
役員会では必ず研修の内容を盛り込むようになったので、事務局では研修内容の事前希望アンケートをとっています。
その結果、様々な領域での希望があり、通級担当が幅広い知識と技能を求めていることがわかりました。
今回は「構音指導の基礎」と、「LD概論」の予定でしたが、議事に時間をかなりとられたため、研修時間が圧縮されました。
よって、今回は構音のみとし、後半は質疑応答をフリーに受け付けることにしました。
講座では、実際の音声サンプルを聞いて評価するOJTの視点を入れた研修としました。
構音を正確に評価できることが、正確な指導につながります。
そして誤り音を取り上げて並べて終わりではなく、そこに法則性を発見して、シンプルにまとめることが大切です。
たとえば、
「ギャ→ジャ、ギョ→ジョ、ギ→ジ、ギュ→ジュ」いつも置き換わっている
ならば、
/ gj → dʒ / (一貫)
と書けばすべて表現されています。
以下、フリーに出てきた質問と回答です。
(プライバシー保護のため、質問内容を若干変えていますが、主旨はそのままです)
***
Q1「キ→チの置き換えのある子が、ある施設で、舌を出してから「キ」の発音をする練習を身につけてきました。通級してきたときに、舌を出してから発音し始めたのですが、舌出しにどのような意味があるのですか?」
A1「舌だしの時、舌は緊張していますか? 緊張しているのですね。そっと柔らかく出すことが大事なので、舌だし時の緊張をゆるめて、ホットケーキのようにすることが大事です。舌だしによって、舌背の盛り上がりを防ぎ、そっと『キ』音を出す練習をしようとしたのだと思います。練習方法としては妥当です。あとは舌が細くならないよう、平らにしながらそっと出すことです」
Q2「食べたものが舌に残っているのは、どうしてですか?」
A2「人は食べ物を食べるとき、「食塊(しょくがい)形成」を行います。人は無意識のうちに、かんで細かくした食べ物をいったん舌の中央に集めています。その集めた物を『食塊』と言います。舌に食べ物が残っているということは、食塊形成から嚥下までのいずれかの過程がうまくいっていないからです。よって、発音が全体的に不明瞭で聞き取りにくいタイプの構音障害があり、背景に舌癖や、舌運動の巧緻性の苦手さがある子の場合、食塊形成の訓練も必要なる場合があるでしょう」
Q3「食べ物を飲み込みにくい子に考えられることは? 側音化構音と関係ありますか?」
A3「アデノイドは腫れていますか? 扁桃が肥大しているのですね。それがアデノイドです。それが原因の一つかもしれません。飲み込むとき、舌先を前に突出させていますか? させていないのですね。では舌先の位置の問題ではなさそうですね。
扁桃肥大があるとして、鼻呼吸は苦しくなさそうですか? それはないですね。扁桃肥大が改善していかないと、飲み込みもスムーズでなくなるかもしれませんね。側音化構音と関係があるかというと、直接は関係ないでしょう。
構音指導は構音指導で進めていけば良いと思います。」
Q4「サ行音は、4歳児では治さなくていいと言われたことがありますが、本当ですか?」
A4「サ行→シャ行、いわゆる幼児音で、浮動性も高い場合は、ただちに指導対象にはならないでしょう。でも、サ行→マ行なのですね。単に発音の問題だけではないことを予期させます。子どもの様々な状態を総合的に評価して、必要な支援を検討することが大事だと思います。指導すべきかどうかは、どの音がどの音に誤っているのか、浮動性はどうか、本人や周囲の困り感はどうか、そして言語発達の状況や年齢、と様々な観点から総合的に判断されるものです」
Q5「昔、幼児期は、側音化構音の聞き分けは難しいので、指導しなくて良いと言われたことがあります。いいのでしょうか?」
A5「側音化構音は、正誤弁別をきちんとやってから、発音練習に入る、というのが昔の考え方でした。練習を受ける動機付けのためにも、聞き分け訓練が大事だと。しかし最近は、そもそも低学年の子に聞き分けは難しいことから、まず正音を単音節で形成して、それから聞き分けに入った方がよい、いたずらに聞き分けに時間をかけると、それだけで通級期間が長くなってしまう、という考え方が一般的です。もっとも効率的な方法で、短期間のうちに改善することを通級担当はいつも検討する必要があります。
また、正音が単音節で獲得されていない段階で、ひらがなを提示して指導するのも危険です。
本人は歪み音とひらがなの文字との対応で既に学習してしまっており、ひらがなを先に見せてしまうと、歪み音を逆に強化してしまう可能性があります。
知能がある程度高く、行動面やコミュニケーション面にも問題がなく、指導に乗れるお子さんなら、幼児期から練習はできるでしょう。幼児期では最低でも、「舌平ら」を作れるようになってから、小学校に引き継いで頂けると、それだけでもかなり良い状態ではありますが。」
***
このように質疑応答がありましたが、これも結構研修になったのではと思います。
経験1,2年の先生方ばかり集まった班を編制しても、このようなやりとりは難しいでしょう。
定期の研修会よりも、役員会での研修会の方が、参加者のニーズに応えられているのではないでしょうか。
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言語発達遅滞と言っても、様々な状態像があります。
自閉症スペクトラム障害や知的障害があっても、ことばは遅れますが、ここでは、文部科学省定義に合わせて、特異的言語発達遅滞を指すことにします。
失語症と言語発達遅滞とは同一視できません。
失語症は、一度獲得した言語能力が失われることであり、子どもの言語発達遅滞はそもそも獲得されていないからです。
だからアプローチの仕方も違ってきます。
子どもの言語発達の方が、どちらかというと経験とことばを結びつけていくことの重要性は指摘できます。
比較して、失語症の場合、経験的なエピソード記憶などが保たれていて、語想起困難(それが何かはわかっていて、特徴などの説明はできるが、ずばりその単語名が思い浮かばないだけ)など、特定の部分だけが障害されている場合、その部分へのピンポイントの指導ができるわけです。
たとえば、
「空を飛び、黒いカーカーと鳴く鳥はなんですか?」→「カラス」
というように、語想起をターゲットにした指導に絞れるわけです。
ただ、そのことは、子どもの言語発達遅滞において、特に語想起困難への支援に狙いたい場合にも使える可能性があります。
知覚推理が高く、視覚的な表象が形成されていて、カラスの属性も理解できていて、語想起だけが苦手という子には使えます。
逆に、カラスを見たことがない、イメージが形成できなくて「カラス」が出てこない場合は、この教材はフィットしないでしょう。
逆に、語想起は良好だが、その属性を説明することが苦手な場合、
「カラスとは何ですか?」
と説明課題を与えたりします。もちろん、選択肢にするなど、難易度の調整も必要でしょう。
失語症の教材を見ていくと、子どもにも使える、と思うことがあります。
「たばこの火を借りるときの会話」などはもちろん使えませんが、ある場面での会話の一部を穴埋め課題にするという課題は、ソーシャルスキルトレーニングにもなり得ます。
人は、日常会話の中で、相手のことばの反応の考えられる範囲を予測しながら聞いているはずです。
それであれば、定型句的な文を検討する教材に取り組むことで、予測能力を高められることにもつながるはずです。
それは文字の読みとも関連しているでしょう。
たとえば、「お茶が熱いので、フーフーと吹いて( )。」(答:「さました」など)
という教材の場合、( )は、前後のことばの文脈から、正解を絞り込めるわけです。
絞り込めないとすれば、そもそもことばの意味を理解していないか、熱いお茶を飲むシーンが想像できないか、熱い場合はフーフーとさます、という経験をしていないか、経験していても、知識として結晶化していないか、などでしょう。
一方、自閉症スペクトラム障害のある子ども向けの教材を見ると、発問の内容が広すぎたり、拡散的すぎる場合が見られたりします。
むしろ失語症の教材のようにターゲットを絞って、経験的、体系的、スモールステップ的に指導した方が合うのではないかと思えてきます。
失語症と言語発達遅滞とのそれぞれの教材を見比べることで、言語発達の見立てがより深まるのを感じています。
そして、通級指導においては、勉強そのものを教えるのではなく、学び方を教える場であること。たとえば、漢字の読み書きの指導の前に、こうした言語発達の基盤ができているのか、その基盤へのアプローチが、まず通級指導には求められると感じています。
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特別支援教育における 構音障害のある子どもの理解と支援 シリーズ きこえとことばの発達と支援
『 特別支援教育における吃音・流暢性障害のある子どもの理解と支援』
小林宏明・川合紀宗編著,2013,学苑社,3675円(税込)
http://www.gakuensha.co.jp/cn27/pg387.html
シリーズの第3弾です。
文献は、科学的に信頼性のある、著者が広く支持されているものを選びましょう。
その意味で、この文献は、著者も、出版社も信頼性が高いです。
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