ハンドルネーム ya
某公立学校通級指導教室担当教員
言語聴覚士
特別支援教育士(S.E.N.S)
性別 男
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聴覚的ワーキングメモリが低く、非語の逆唱や、語内位置弁別、削除課題(「りんとご」から「と」を取ったら何?」、付加課題(「り」と「ご」の間に「ん」を入れたら?)などが苦手なお子さんへの構音指導についてです。
たとえば、「ス」の構音指導で、単音節の復唱は獲得したものの、「スア」「スオ」など非語(無意味音節)の練習になった途端、困難な場合があります。
非語や有意味語の逆唱、語内位置弁別(「ス」が単語のどの位置にあるかを特定する)が苦手で、WISC-4でも聴覚的ワーキングメモリが非常に低い場合、私は単音節の獲得を当面の目標にすることがあります。
そして、「ス」の次に、同じ摩擦音系の「シ」、または、同じ構音位置の「ズ」の単音節獲得を目指したりします。
聴覚的ワーキングメモリが育つまで、発語器官の運動記憶を用いて、汎化の基礎を築くわけです。
聴覚的ワーキングメモリがある程度育ってきて、非語の復唱が難なくできると判断した段階で、その段階の練習を開始します。
もっとも、子どもの状態像は刻々変化していきますから、一度決めたらずっとその通りでなく、ときおり、2モーラの復唱ができるようになったか、確認しながら行っていきます。
子どもにとって負担が少なく、もっとも効率的で早く獲得できるように、指導者はいつも工夫し、経験の長い人に相談しながら進めなければなりません。
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先日はことばの教室の先生方の役員会で、構音指導の基礎講座をお願いされました。
役員会では必ず研修の内容を盛り込むようになったので、事務局では研修内容の事前希望アンケートをとっています。
その結果、様々な領域での希望があり、通級担当が幅広い知識と技能を求めていることがわかりました。
今回は「構音指導の基礎」と、「LD概論」の予定でしたが、議事に時間をかなりとられたため、研修時間が圧縮されました。
よって、今回は構音のみとし、後半は質疑応答をフリーに受け付けることにしました。
講座では、実際の音声サンプルを聞いて評価するOJTの視点を入れた研修としました。
構音を正確に評価できることが、正確な指導につながります。
そして誤り音を取り上げて並べて終わりではなく、そこに法則性を発見して、シンプルにまとめることが大切です。
たとえば、
「ギャ→ジャ、ギョ→ジョ、ギ→ジ、ギュ→ジュ」いつも置き換わっている
ならば、
/ gj → dʒ / (一貫)
と書けばすべて表現されています。
以下、フリーに出てきた質問と回答です。
(プライバシー保護のため、質問内容を若干変えていますが、主旨はそのままです)
***
Q1「キ→チの置き換えのある子が、ある施設で、舌を出してから「キ」の発音をする練習を身につけてきました。通級してきたときに、舌を出してから発音し始めたのですが、舌出しにどのような意味があるのですか?」
A1「舌だしの時、舌は緊張していますか? 緊張しているのですね。そっと柔らかく出すことが大事なので、舌だし時の緊張をゆるめて、ホットケーキのようにすることが大事です。舌だしによって、舌背の盛り上がりを防ぎ、そっと『キ』音を出す練習をしようとしたのだと思います。練習方法としては妥当です。あとは舌が細くならないよう、平らにしながらそっと出すことです」
Q2「食べたものが舌に残っているのは、どうしてですか?」
A2「人は食べ物を食べるとき、「食塊(しょくがい)形成」を行います。人は無意識のうちに、かんで細かくした食べ物をいったん舌の中央に集めています。その集めた物を『食塊』と言います。舌に食べ物が残っているということは、食塊形成から嚥下までのいずれかの過程がうまくいっていないからです。よって、発音が全体的に不明瞭で聞き取りにくいタイプの構音障害があり、背景に舌癖や、舌運動の巧緻性の苦手さがある子の場合、食塊形成の訓練も必要なる場合があるでしょう」
Q3「食べ物を飲み込みにくい子に考えられることは? 側音化構音と関係ありますか?」
A3「アデノイドは腫れていますか? 扁桃が肥大しているのですね。それがアデノイドです。それが原因の一つかもしれません。飲み込むとき、舌先を前に突出させていますか? させていないのですね。では舌先の位置の問題ではなさそうですね。
扁桃肥大があるとして、鼻呼吸は苦しくなさそうですか? それはないですね。扁桃肥大が改善していかないと、飲み込みもスムーズでなくなるかもしれませんね。側音化構音と関係があるかというと、直接は関係ないでしょう。
構音指導は構音指導で進めていけば良いと思います。」
Q4「サ行音は、4歳児では治さなくていいと言われたことがありますが、本当ですか?」
A4「サ行→シャ行、いわゆる幼児音で、浮動性も高い場合は、ただちに指導対象にはならないでしょう。でも、サ行→マ行なのですね。単に発音の問題だけではないことを予期させます。子どもの様々な状態を総合的に評価して、必要な支援を検討することが大事だと思います。指導すべきかどうかは、どの音がどの音に誤っているのか、浮動性はどうか、本人や周囲の困り感はどうか、そして言語発達の状況や年齢、と様々な観点から総合的に判断されるものです」
Q5「昔、幼児期は、側音化構音の聞き分けは難しいので、指導しなくて良いと言われたことがあります。いいのでしょうか?」
A5「側音化構音は、正誤弁別をきちんとやってから、発音練習に入る、というのが昔の考え方でした。練習を受ける動機付けのためにも、聞き分け訓練が大事だと。しかし最近は、そもそも低学年の子に聞き分けは難しいことから、まず正音を単音節で形成して、それから聞き分けに入った方がよい、いたずらに聞き分けに時間をかけると、それだけで通級期間が長くなってしまう、という考え方が一般的です。もっとも効率的な方法で、短期間のうちに改善することを通級担当はいつも検討する必要があります。
また、正音が単音節で獲得されていない段階で、ひらがなを提示して指導するのも危険です。
本人は歪み音とひらがなの文字との対応で既に学習してしまっており、ひらがなを先に見せてしまうと、歪み音を逆に強化してしまう可能性があります。
知能がある程度高く、行動面やコミュニケーション面にも問題がなく、指導に乗れるお子さんなら、幼児期から練習はできるでしょう。幼児期では最低でも、「舌平ら」を作れるようになってから、小学校に引き継いで頂けると、それだけでもかなり良い状態ではありますが。」
***
このように質疑応答がありましたが、これも結構研修になったのではと思います。
経験1,2年の先生方ばかり集まった班を編制しても、このようなやりとりは難しいでしょう。
定期の研修会よりも、役員会での研修会の方が、参加者のニーズに応えられているのではないでしょうか。
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今年も、矯正歯科の歯科衛生士さんに来て頂き、講義を受けました。
舌癖(ぜつへき)が歯のかみ合わせに影響し、発音に影響する場合があること、矯正歯科での発音指導は、舌癖の改善によって、歯のかみ合わせを改善するのが目的で、ことばの教室での構音指導と同一視はできないこと。MFTがことばの教室での構音指導に直接的な効果を表すと断定するものではないこと、など説明を頂きました。
舌先が突出しやすい子には、仰向けに寝かせると、舌根が下がるので、突出しにくい、というのは、目からうろこでした。当たり前なことですが、あまりやったことがありませんでした。
早速試したところ、舌を突出させない努力性に改善が見られる事例がありました。
ただ、MFTは、舌癖のある事例では、構音の改善の側方支援にはなるでしょうが、それだけでは構音は改善しないでしょう。
新しい先生は、つい舌の筋肉のトレーニングに重点をおいてしまいますが、多くの場合は不要です。時間の無駄です。
漸次接近法や構音点位置づけ法などの直接的な構音指導を早期に開始した方がよいと思われる事例の方が実は多いです。
ただ、不要というわけでもなく、しかし週一回だけでは効果的でもない、ということに留意が必要と思います。
MFTを行う場合は、マニュアルを熟読し、それぞれの内容の目的を検討して、その子のためになるか精査が必要でしょう。
たとえば、サ行音のニーズがある子に、ミッドスティック(舌の奥の方を持ち上げる訓練)は不要です。サ行が歪み音なら、むしろ有害ですらあるでしょう。
逆に、サ行で舌が突出している場合。
前歯が開咬(オープンバイト。上下の歯のかみ合わせが開いている)の場合、舌の突出の原因が、「口ポカ(唇がいつも空いている)」であるならば、、口唇の筋力を鍛えるトレーニングは有効かもしれません。
ただし、鼻呼吸に困難のある子には、鼻の治療がまず大事ですが。
いずれにせよ今回は、MFTの最新の実践の極意を聞くことができて、とても勉強になりました。
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久しぶりに構音指導について。
よく「○○」の発音がうまくできないので、指導をどうしたらよいかという相談を受けます。
中には、同じ子どもの発音について、関係者によって「○○の音は出せる」「出せない」と見解の相違が見られることもあります。
「どのレベルまで正音なのか」の精査がされていないので、見解がずれてしまうのです。
つまり、単音節では正音が出せるが、会話ではまだなのかもしれない。
ある先生は「○の音が上達している」と評価しても、保護者や他の先生は、会話しか聞いていないので、変化に気づけないということがおこります。
発音の練習には段階があります。
単音→単音節→無意味音節(非語)→単語(有意味語)→短文→会話
どの音がどの段階まで正音が確実なのか、どの段階でつまずいているのかを評価しなければなりません。
その評価があって、初めて指導の手立ては出てきます。
そして障害音だけでなく、音の全体を聞いた中で、指導の順序を検討する必要があります。
段階とか順序というだけでも、これだけのアセスメントが必要です。
それ以外にも、音韻分析機能や発語器官の形態や機能、知的発達、認知発達、コミュニケーション、生育歴情報など様々な情報があって、初めて指導の手立てが検討されるのです。
一般論、当てずっぽうのアドバイスで、子どもが不利益を被ることがあってはなりません。
特に構音指導は、やり方を一つ間違えると、取り返しの付かない事態に陥ることがあります。
コンビニエンス的に、このプログラムをやれば構音が改善する、というのは危険です。
「生兵法は怪我のもと」
「触らぬ神にたたりなし」
なのです。
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『舌のトレーニング』大野粛英・岡田順子・橋本律子・入江牧子 著、1998、525円(税込) 、わかば出版(写真右)
http://www.shien.co.jp/act/d.do?id=2264
『MFT入門‐初歩から学ぶ口腔筋機能療法』、山口 秀晴 他監修 大野 粛英 他監修、2007、わかば出版、5,985円(写真左)
http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1102580294/subno/1
『構音の指導研修DVD』の頒布を受けた方には、無料で、「ことばの教室ビギナーズ交流館」というパスワード付きの掲示板にご招待しています。今回は、その掲示板でのやりとりから、一部引用します。
【Q】
相談させて下さい。
今度通級予定の1年男児です。就学時健診の時に「ジドウシャ」を「ジドウサ」と言っていたので後日掘り下げ検査をしてみると、かなりの頻度でシャ行→サ行、ジャ行→ザ行に置き換わっていました。
「シ」「ジ」は正音で、他者弁別はほぼ正答できました。
また正しい表記の方を選ぶこともできました。(例:自動車の絵を見て「じどうしゃ」と「じどうさ」、どちらが正しいか、わかっている)
サ行がシャ行になるような幼児語の子どもは担当したことがあるのですが…
何が原因でそうなり、どんな指導をしていけばよいか、何かヒントがあれば教えてください。
よろしくお願いします。
【A】
確かに、サ→シャは多いですが、シャ→サは少ないですね。ただ、就学前後のお子さんには結構な頻度でいますよ。
書いていただいた情報の他に、次のようなアセスメントをすると、指導の手立てが考えられると思います。
1 被刺激性はどうか
→シャを聞かせて復唱させた時に、正音が出せるか。
2 浮動性はどうか
→「かなりの頻度」というのがポイントと思います。どういう条件なら正音が出せるのか。
たとえば、単語のはじめ、真ん中、終わり、という語内位置によって違うのか、音の渡りによって違うのか、サシャを交互に発音したらどうか、など。
3 レベルはどうか。
→単音節、無意味音節、単語、文のレベルのうち、どのレベルで正音が出せないのか。
いずれにせよ、「シ」の正音が出せて、弁別ができて、文字も読めるなら、見通しは明るいと思います。
意外と「シア」をだんだん速く言う→「シャ」、という指導だけで出せるようになる可能性もあるかと思います。
【Q2】
先日、第一回目の指導を行いました。
シアからシャを導くと上手く言えたので、単音はオッケーのようです。今後、単音を強化しながら、語頭にシャがつく単語から取り組ませていきたいと考えています。
行き詰ったら、また相談させてください。
【A2】
うまく行っているようですね。
単語の練習もそうですが、無意味音節をしっかりやるのがコツですね。
「アシャオシャカシャ」とか。
無意味音節が素早くできて安定してから、単語に入ると、単語はすぐマスターしますし、仕上がりがいいですよ。
コメントでご質問頂きますと、お返事をお相手に直接できません。
それで、この記事の場でお返事します。
この記事で個人が特定されることはないと思いますが、質問の表現を変えてさせて頂いています。
でも主旨はそのままです。
Q1
意識すれば上手に「し」が言えるが、会話や、ちょっと長い文章になると舌を前歯ではさんで発音してしまう。
A1
あともう少しというところでしょうか?
もともと、舌を出して練習していたのでしょうか?
それとも、もともと歯間音化していた事例でしょうか?
歯のかみ合わせはどうか(オープンバイトではないかとか)、
あごの大きさはどうか、
姿勢は、
いつも口がぽかんと開いているか、
などとの関連で検討する必要があります。
側音化構音の指導で、舌出しで練習した場合、
若干舌が出る状態が残ったとしても、
側音化は改善して会話明瞭度が向上しているならば、
終了としているSTもいます。
ただ、もう少し般化を図りたいなら、「ましたゲーム」などで、
注意をそらせても正音が出せるゲームをしてみてはどうでしょうか。
Q2
「が」「げ」が、単独音や単語、パバマ表のときは、ずいぶんきれいに発音できますが、文章に出てくると、歪む場合があります。
A2
「が」が歪むというのはどういう歪みでしょうか?「げ」の歪みとは同質でしょうか?
側音化なのか、口蓋化なのか、舌の動きを見て正確に評価する必要があります。
単音節できれいなように聞こえても,文章になって、他の音との渡りの関係ができると歪むという場合、本当にそうである場合と、実は単音節でも歪んでいる場合もあります。
舌の動きを直接見て評価することが大切です!
もし、評価が正しいなら、A1と同じように、般化のためのゲームがよいと思います。
また、短文レベルの練習をしていないのであれば、2語文、3語文と練習してみては。
Q3
現在、「キ・ギ」が歪む子供で顎がかなり小さく、不正咬合の子がいるのですが、単音まで進んだのに、他の音を付けるとどうしても歪んでしまいます。(特に語尾)
きれいに出るときもあるのですが、安定しません。脱力はでき、呼気も中央から出るようになった事を確認したつもりだったのですが、
どうも舌が広がりきれない感じがあります。
舌を出させると、広がると言うより、前へ出る癖がかなり強いように思われます。
「イ」の指導がきちんとできていなかったと言うことなのでしょうか?
・水を飲むとき、わずかの水でも何度もごっくんする。
・水を飲むとき、下口唇を緊張させて、口の中に入れ込むようにして飲む。
・水を飲むとき、舌先を歯より前に突出させないと飲めない。
・口唇を開けても、水を口内に維持できない。
(下を向かせると、水がだらーとこぼれる)
などの症状を呈し、構音障害がある場合、
舌の運動について評価することが必要です。
特に、舌縁(舌のヘリの部分)が、口蓋にしっかりついていることが重要です。
たとえば、このように、タ行、チチャチュチョ、ツなどの発音の時にも、
舌のヘリの部分が一度口蓋にくっついている状態を
作らなければなりません。
水を何度もゴックンしなおす子の中には、
この形をまず作れていない場合があります。
ならば、まず、口の中(正確には、舌と口蓋との間)に
水を保持する練習が必要になります。
側音化構音の指導では、舌お皿(舌平ら)から始めますが、
これは舌縁を口蓋にくっつけ、舌の真ん中だけ開けるという形を
作るためです。
ならば、水の保持の練習は有効と思われました。
実際、この練習法で、舌平らへの誘導、
または、どうもすっきりしないイ列音の安定に
貢献した事例があります。
構音指導のためには、練習法の前に、口腔内や
舌の動き、位置などをしっかりイメージし、
また観察できなければなりません。
逆にイメージができていれば、
教科書にはないような補助具を使った指導への
応用もできるようになります。
そのためには、発音記号の使用が必須です。
指導のメモである指導記録には、
発音記号で記載し、発音記号で検討することが基本です。
週わずかの指導時間で効果を上げるためには、
様々な学術的知識を動員し、
指導のあり方を練って練って、練り直すことが必要です。
もちろん、構音指導は、構音が誤っているからするのではなく、
その子のコミュニケーションを豊かにすることをお手伝いするために
行うものであることを見失ってはなりません。
涌井 豊著 1996
『側音化構音の指導研究』学苑社
|
指導効果をあげるためには、やはり誤り(音)を自覚させることが大切だと思う。(p53) |
阿部 雅子著 2003
『構音障害の臨床』金原出版
|
音の正誤の判定に長い時間をかけるよりも、その時間を正しい音節をつくるために使い、正しい音節ができた時点で、改めて良い音と悪い音を理解させたほうが(よい)(p34)
|
涌井 豊著 1996
『側音化構音の指導研究』学苑社
|
・舌先の偏位(側方へ曲がったり、ねじれたりする)が認められる場合は多く、ほとんどは口唇の偏位も伴っている。この場合には、口唇の偏位を改善した後で舌の脱力・安定を図る段階へ進む。(p61)
/i/の口形は、口角を左右に最も引いた形である(p63) |
阿部 雅子著 2003
『構音障害の臨床』金原出版
|
舌先がどの方向を向いているかよりは、硬口蓋に接して口腔を閉鎖していること自体が問題である(p70) 両口角を横に強く引いている場合もよくみられるが、口角を引くと舌の力が抜けないだけでなく、喉にも力が入るので、この力も抜かなければならない。(p62) ・口唇や下顎の横への動きを抑制したり、引かれている口角や頬部を押さえたりしても根本的な改善にはならない。
・まず舌の不自然な力を抜くこと、つまり舌の脱力が重要である。(p70) |
(図はクリックで拡大)
構音指導をすすめる上で、練習の基礎となるのが
「舌平ら」「舌お皿」の形成です。
あまり必要ない場合もありますが、
特に側音化構音、口蓋化構音の指導では
まず必要になります。
「舌平ら」「舌お皿」の実際の舌は、
どんな形なのだろうとお悩みの方が
いらっしゃるようなので、写真でお示しします。
さて、正しい「舌平ら」はどれでしょう?
Aは舌が盛り上がり、舌縁が口角についていないのでだめです。
Bは、一見平らのようですが、舌縁が緊張して波打っています。
Cはブイ字にしすぎていますし、舌の奥が緊張しています。
開口時に口蓋垂(のどちんこ)が見えるぐらいに、
奥も平らでなければなりません。
Dは歯で噛んで、むりやり平らにしようとしていますね。
このままでは構音指導に入れません。
最悪の場合、呼気が正中(真ん中)から出るのを
歯がブロックし、
呼気が側方から漏れる、側音化構音を悪化させる場合も。
ということで、Eが正解。
ホットケーキのようにふわっとしていて、
舌縁が口角に付いています。
口角に付いていれば、呼気が側方から漏れることはありません。
側方から漏れた場合は、口角と舌縁が離れるので、目で確認できます。
練習時に鼻息鏡は必要ないわけです。
だから、側音化構音の指導は特に
舌を出した方が指導がしやすいのです。
「舌を出すと、歯間音化になる」
ということを恐れすぎて、
口の中に舌をおさめたまま練習し、
いつまでも改善しないという例を見てきました。
8割9割は、舌を出して練習しても、
練習日を重ねるうちに、自然に引っ込んでくるものです。
私の経験上。
引っ込まなければ、単語~短文レベルまで呼気が正中から
しっかり出るようになった後、
スモールステップで引っ込めるようにすればよいだけのことです。
来年度、ことばの教室基礎研修会の講師の依頼を2本受けています。
また、個人的にも基礎的なご質問を頂いていますので、
その回答を兼ねて、少し原稿を書いてみます。
また、構音の指導研修DVDの頒布を中止していますが、
入手したいとのお声もちょうだいしていますので、
DVDの内容を一部引用、掲載する形で、ご要望に少しでもお応えしようと思いました。
よろしくお願いいたします。
では、まず サ行とシの違いについて・・・。
**********************************
「サスセソ」と「シ」は音の種類が違います。
「サスセソ」=「サ行」は、内緒の声(摩擦音)で、
「ス-」という音が元になっています。
内緒の声の「ス」に、有声音の「ア」を続けて言えば、
「ス+ア」=「サ」(子音の/s/+有声母音の/a/ =/sa/ )
となります。
同じように、
「ス+オ」=「ソ」 (子音の/s/+有声母音の/o/ =/so/ )
「ス+エ」=「セ」 (子音の/s/+有声母音の/e/ =/se/ )
「ス+ウ」=「ス」 (子音の/s/+有声母音の/w/ )=/sw/ )
(※w は正確な表記ではありませんが、ネット上の表記の制約のため)
となります。
ところが、「シ」はどうでしょうか。
「ス+イ」=「シ」
でしょうか?
いいえ、
「ス+イ」=「スィ」
です。
「シ」とは微妙に違います。
「シ」は、
「みんな静かにして!」と、内緒の声で、
口の前に一差し指を一本立てて、
「シー」という時の音に、
有声音の「イ」が続くので、
「シ」になります。
「シャシュショ」も同様です。
「シ+ア」=「シャ」
「シ+オ」=「ショ」
「シ+ウ」=「シュ」
つまり、「シ」は「シャシュショ」の仲間です。
「サスセソ」と「シシャシュショ」は、別の仲間です。
最初の声の部分、つまり子音部分が違います。
このことを以下の図で整理します。
(図はクリックで拡大。以下同様)
下のローマ字のUを反対にしたようなのは、
口蓋(お口の中の天井部分)を示しています。
上側が歯のある前方、下側がお口の奥の方向です。
緑色の矢印が、呼気の出る方向です。
点点の部分は、口蓋が舌と接している面を示しています。
空白は、舌と口蓋が接していない部分です。
/s/ つまり、サスセソの子音部分は、
呼気の抜け道が狭くなっています。
一方、シシャシュショ(右の図)では、
呼気の抜け道は、/s/ に比べて広くなっています。
広い抜け道の摩擦音を発音記号で書くと、
/s/を縦に伸ばしたような記号になります。
「ロングエス」と読みます。
この抜け道の狭さの違いが、音に違いを出す主役となります。
呼気の通り道を狭めることを「せばめ」と言います。
ザ行も同様です。
「ザズゼゾ」と、「ジ」は違う仲間です。
「ジ」は、「ジャジュジョ」の仲間だからです。